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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)1310号 判決 1985年9月18日

本店所在地

東京都町田市森野一丁目三二番一三号

新光商事株式会社

(右代表者代表取締役 園田司)

本籍

東京都町田市本町田一八四八番地の五

住居

右同

会社役員

園田司

大正一一年一月二三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官櫻井浩出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人親光商事株式会社を罰金二七〇〇万円に、被告人園田司を懲役一年にそれぞれ処する。

二  被告人園田司に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人新光商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都町田市森野一丁目三二番一三号に本店を置き、不動産売買・仲介等を目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人園田司(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七〇四九万六二一五円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年七月三一日、東京都町田市中町三丁目三番六号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一四七七万四九九〇円でこれに対する法人税額が四一四万八〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第九〇〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四一万七六〇〇円と右申告税額との差額九六二六万九六〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通

一  新沼順男、島田克彦、秋山初蔵、山下政治、園田忠士及び広島曻の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  仲介受取手数料調査書

3  期首商品・製品たな卸高調査書

4  仕入高調査書

5  工事費調査書

6  期末商品製品たな卸高調査書

7  受取利息調査書

8  受取配当金調査書

9  分配金収入調査書

10  源泉所得税認容調査書

11  雑収入調査書

12  事業税認定損調査書

13  課税土地譲渡利益金額・税額調査書

14  期首商品製品たな卸高調査書(補充分)

15  仕入高調査書(補充分)

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の被告会社の登記簿謄本一通、同登記簿の閉鎖目的欄の謄本一通、同登記簿の閉鎖商号・資本欄の謄本一通及び同登記簿の閉鎖役員欄の謄本三通

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六〇年押第九〇〇号の1)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑を選択

三  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、不動産売買、仲介等を目的とする被告会社の代表者である被告人が、被告会社の昭和五七年五月期の事業年度において、その業務に関し、売上の一部を除外するなどの方法により、所得を一億五五七二万一二二五円圧縮して申告し、同事業年度の法人税九六二六万九六〇〇円をほ脱したというものであり、ほ脱額は一事業年度としては高額である上、ほ脱率も九五・八七パーセントと高率である。所得圧縮の主な方法は、被告会社が資本の一部を出資し、被告人が代表者となっている有限会社協同観光から三田村建設工業株式会社への土地売却に伴う被告会社の仲介受取手数料三〇〇〇万円及び受取配当金一〇〇〇万円の各除外並びに被告会社から財団法人日本労栄協会への土地売却による被告会社の売上の一部一億一八四二万四〇〇〇円の除外である。前者は、売買の過程に株式会社秋山商会をダミーとして介在させて有限会社協同観光の売買益を圧縮した上、これによって生じた裏金から前記手数料、配当金を受け取り、いずれも除外したというものであるところ、弁護人は、株式会社秋山商会の代表者秋山初蔵及び有限会社協同観光に出資している有限会社いげたの実質経営者今井長成らから強く依頼されて被告人は株式会社秋山商会をダミーとして介在させたものであり、このためその反射的効果として前記手数料、配当金を除外せざるを得なかった旨主張するが、株式会社秋山商会に利益を得させるため同会社をダミーとして介在させることによって有限会社協同観光に裏金が生じ、これにより被告会社は受け取る手数料、配当金を除外しやすくなったとは言えるものの、有限会社協同観光の代表者でもある被告人の立場として右手数料、配当金を除外せざるを得なかったとは言えないことが明らかである。また、売上の一部除外は、被告会社から財団法人日本労栄協会への土地売却に際し、売買代金額について国土利用計画法上の措置(知事の勧告等)を免れるため、実際の売買代金額が坪単価四八万円であるにもかかわらず、知事への届出上の売買代金額を坪単価四〇万円とした上、実際の売買代金額との差額を裏金として売上から除外したというものであるところ、弁護人は、財団法人日本労栄協会が坪単価四八万による早急な取引を要望してきたので、被告人はその提案に応じて右態様での取引を承諾したもので、同協会が差額を工事費に上乗せ計上して処理している以上、被告人としては差額を土地代金として表に出すことができず苦慮していた旨主張するが、結局は、多額の売買益を得ようとして国土利用計画法上の措置を免れる手段を講じたため脱税する結果となったということにすぎず、また、被告人において差額を当初から積極的に申告納税しようとした形跡は窺われない。以上のとおり、所得秘匿の態様等をも考慮すると被告人の納税に対する態度には厳しく非難されるべきものがあると言わざるを得ない。

しかし、被告人は、捜査、公判を通じて事実を認め、本件につき修正申告をした上、本税、重加算税、延滞税等を全て納付するなど反省改悟し、今後の過ちなきを誓っていること、長年不動産業等に従事して真面目に社会生活を送ってきたもので前科もないこと等被告人に有利に斟酌すべき事情も存するので、これら諸般の事情を総合勘案した上、主文のとおり量刑する。

(求刑 被告会社につき罰金三二〇〇万円、被告人につき懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 石山容示)

別紙(一) 修正損益計算書

新光商事株式会社

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

別紙(二) 税額計算書(単位:円)

会社名 新光商事株式会社

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

<省略>

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